SHEINが実店舗を持っていない事は有名すぎる話。まず最初に「実店舗を持たないSPAブランド」と紹介されるのが常となっていると思います。実店舗を持たないと商品輸送の回数が格段に減るわけですし、店舗を出店・維持をする費用もないわけですから、価格に転化される部分が少なくなるので、安く消費者に届けられるメリットが生じます。ですが実店舗を持たないというのは単純に販売チャネルが一つ落ちるだけではありません。下記の図を使いマーケティング的観点から話をしますと、SHEINのような大きなSPAブランドが実店舗を持っていないというのはこれまで例を見ないケースであるからです。この図を用い、想像するSPAブランドでイメージして見てください。
こちらの表はマーケティングを考えるために行う簡単なフレームワークの表になります。まずブランドビジネスをする点で以下に大事なのは⑤④の部分になります。なぜならいきなり忠誠度が高いリピーターが沢山できるわけではないからです。まずは潜在的顧客をたくさん作る事がとても大切です。
あるスキンケアブランドが昼間を中心にテレビCMを大量投入する
ラジオCMでいきなり神妙なトーンで過払い金の話をする弁護士事務所
例で2つ挙げました。皆様このキーワードだけ見てもどのホルンな会社とか想像して頂けると思います。これらは⑤④でまずブランドを知ってもらうために特定のペルソナ(仮顧客)をイメージして大体的な認知活動をしている例になります。ここで大事なのはいかにそのブランド名やロゴを消費者にすり込ませるか。という点です。そうすればいざスキンケア用品を買い換えようか?という実際に使いたい場面において、特定のブランドが自然と選択肢に上がって来るのです。アパレルでいうとテレビCMはもちろん。買ってもらわなくても、たとえお店に入ってもらえなくても、実店舗を人通りの良い所に置いているだけで莫大な広告効果が期待できるのです。特にチェーン展開するアパレルメーカーにおいては単に実店舗は売り上げを上げるための手段だけではなく、全体の売り上げを上げる目的において非常に大きな効果があると言えます。
突然に暑くなりちょっと肌着でも一枚でも着られるようなTシャツが欲しいなと思った時、駅テナントのお店で買ってもいいし、帰りの電車の中でオンラインで買っても良いわけです。お店で買って接客や陳列がいいな、他の商品も良さそうだなと思えばあっという間にリピーターになります。だんだんとリピーターになると家族や友達にそのブランドを勧めるようになります。こうして顧客が育っていく点を考えると実店舗を持たないというのはSPAブランドにおいてはかなり思い切った決断であったと言えるでしょう。
ではなぜSHEINは実店舗を持たず、webサイトとアプリでのみ買えるようなブランドであるかという点です。それはpart2でも記載した通り、創業者のクリス・シュー氏のバックボーンにあると思います。元々アパレル畑ではなくweb seoのエンジニアでありマーケティングに造詣が深い事に起因すると思います。上記のマーケティング手法は基本の思考であり、知っていて損はない事ではありますが一方で旧来的となっている部分も多分にあるからです。そこにはいくつかの要因があるかともいますが、まず購買へのアプローチが複雑化した、販売チャネルが増えたであろう点が考えられます。
以前よりEC化が進んでいますので、購買に至るプロセスが格段に変わりました。EC化が発達すると旧来のマーケティングプロセスでは不十分な部分や、費用対効果が以前より得られなくなるようになりました。テレビCMを打つより、ターゲティング広告をwebサイトに貼った方が、特定のSNSで広告を打った方が実数も測定できればターゲットもより詳細に設定できて効率的な広告になります。そしてアパレルにおいてはブランドを作る事も以前より簡単になりましたのでフォロアー10万人のインフルエンサーがブランドを始めたら、CMのようなマスプロモーションを行わずとも、いきなり10万人の潜在顧客が居るうえに、消費喚起の必要フェーズは全て自身のアカウントで完了します。特にEC周りの技術革新や、新しいマーケティング手法が誕生しているアパレル業態であれば、SHEINがスタートアップの段階でwebサイト、アプリでの販売に特化するというのは、自身の背景を活かし、圧倒的な価格バリューを与えるという点でとても良い選択ではないでしょうか。
洋服が安く買えるwebサイトをOPENしました。そしてそこに集客するノウハウがあります。果たしてそれだけで莫大な売り上げは築けるでしょうか?当たり前ですがそこには魅力的な商品がないと当然いけません。実際にSHEINのサイトやアプリでショッピング体験したことはありますか?SHEINには一企業のECモールとは思えないほどの量の選択肢から選ぶ事ができます。莫大な売り上げの源泉は圧倒的なコンテンツ力にあると断言できます。
個人向けの不動産情報を探すならsuumoで決まりしでしょう。中にはアットホームの方もいるかも知れませんが、まずはsuumoで情報収集が一般的だと思います。当然ですが一番の情報量があるからです。沢山の選択肢から選ぶ事ができます。zozotownも色々なブランドからショッピング体験ができて非常に便利です。コンテンツビジネスにおいて一丁目一番地で一番大切な事は圧倒的な量になります。小手先の技術で流入に優位性を持たせても選択肢がなければコンバージョンは難しいです。服の買い物でも、旅行でも中古車でも我々はまずコンテンツが豊富な情報源を求めます。
レディース「スウェットパンツ」で検索
zozotown 6,891件 SHEIN 4,480件 United Arrows 69件 ZARA 14件
レディース 「トレンチコート」で検索
zozotown 3,551件 SHEIN 1,904件 United Arrows 61件 ZARA 8件
レディース 「ワイドデニム」で検索
zozotown 6,9444件 SHEIN 4,480件 United Arrows 335件 ZARA 4件 GAP 20件
上記3アイテムをそれぞれの検索窓内で検索したところ、国内ブランドを中心に扱うECモールzozotownほどのバリエーションはないが複数のブランドを展開し、様々なブランドをセレクトするUAより圧倒的に多く、他のSPAに比べると天文学的な差をつけて比較ができるという結果になりました。アイテムによってはより少し詳細な検索条件によって狭められると思いますが、「トレンチコート」であればそのまま検索すると思います。1企業において1900バリエーションのあるトレンチコートを用意出来るのがSHEINの最大の強みなのです。一般的なブランドがトレンチコートをシーズンに企画するのは1パターン。あるいわよく作ったなというブランドも3パターン程度でしょうか。特にジャケットになると緻密なデザイン性、機能を求められますのでTシャツのように豊富にバリエーションを揃えられません。しかしSHEINはサプランチェーン部分の「立案企画」そして「製造」においてAIを活用し、従来では考えられないような速度でビジネスを展開する事が出来るようになったのです。
SPAのサプライチェーンをアップデートしたSHEINの技術力は豊富なコンテンツと強烈な価格を生み出しました。また店舗ありきという従来のSPAのあり方をかえ、どんな方向へ向かい今後何を見せてくれるのか。「環境問題・児童就労・デザイン模倣訴訟」様々なイシューが表出して大きな議論を呼んでいます。賛否は大いにあるビジネスモデルであることは間違いありませんが、これまでと全く違う価値観を生み出したSHEINの快進撃の傍観者となりこれからもレポートしていきます。