アパレル界の常識を覆した「SHEIN」とその背景を解説

アパレル業界にてSPAというのは、企画から製造、販売までを一気通貫で行えるアパレルメーカを指します。国内でいうと「UNIQLO」海外では「ZARA」や「GAP」「H&M」など私たちの生活圏に多く存在する身近なメーカーであります。大型のショッピングモールや駅ビル、国道沿いなど人が集まりやすい立地にあり、とても高い集客力をもったメーカーなのが特徴の一つでしょう。

SPAブランドの利点はいくつかありますが主だった2点として、①企画から販売までの期間が短く、様々なニーズに細かく俊敏に対応できる。②流通コストの削減により低価格で販売出来る。この①と②の利点を咀嚼して伝えると、「流行りの服を安く展開できる」という点につきます。アパレル業界というのはTシャツのサイズ一つにしてもトレンドというものが発生する、消費者の意向が強い業界です。SPAブランドというのはマーケティング的観点でいうとマーケットインの情報を競合より、早く安く並べられるので、勝ち馬的な手法で商売が出来るという事になります。ビジネスモデルとしては、参入障壁はかなり高いものの、軌道に乗れば上手くいくであろうとう考えです。これらの事は言葉で並べたり、マーケティングのフレームワークをすれば、すぐに導き出せるあっさりとした理論ですが、実際のところはそうではありません。世の中には計算外の事態が多く存在し、テクノロジーと人々の行動は常に変化をするものなのです。

特に近年においては、様々な業界においてゲームチェンジャーになりうるいくつもの事態が発生しました。例えばウイグル問題、そして新型コロナウィルスにおける世界的なパンデミック、ウクライナ戦争、最近で言えば円安問題。そこに加え、様々なデジタル化が大きな影響をもたらしていると言えるでしょう。これまでのようにニーズを早く察知し、安く、良い立地の店舗に商品を届ければ勝手に売れるという理論が崩壊し始めたのです。巨大なSPA企業には大きな変化を求められるようになりました。どうやら、単純にEC化を加速させるだけが事態の切り抜け方にはならなかったようです。

そしてこのアパレル業界に逆風吹くなか、大きなSPAが登場しました。それがタイトルにある「SHEIN」です。創業は2008年、中国にて生まれました。元々はWebマーケティング会社であり、早くから越境ECに力を入れておりました。優れた広告マーケティング戦略でどんどん拡大をしていきました。SHEINの最大の特徴は実店舗を持っていない事です。最初に書きましたが、SPAブランドといえば必ず立地の良い場所に実店舗がありました。そこでSPAブランドは多くの収益を上げる事と広告宣伝の機能を果たしてきました。SHEINはこれまでの常識を一つ壊しました。SPAの売り上げのラストワンマイルは実店舗が果たすという点です。アパレル業界のEC比率はもちろん高まっていますが、実店舗との絶妙なバランス感で両立し、収益をあげている企業が大多数です。

少し視点を変えてみます。食べログやホットペッパーに代表される販促関連の媒体、求人のフリーペーパーやいわゆる転職サイトなどの求人媒体。これらは早くからDX化が進んでいました。私の想像なのですが、紙媒体よりネットやアプリ関連の市場規模の方が遥かに大きいのではないかと想像しています。アパレル業界でECオンリーのSPAというのはありそうでなかった!?のでしょうか。答えは分かりませんがZOZOTOWNや楽天市場、amazon、ebayなどECモールが大きなトレンドであったのは間違えありません。ECモールはさながらデパートでの買い物のように複数の選択肢から買いたいものが見つけられます。ショッピング体験としては、満足度の高い体験と言えるのではないでしょうか?では何故そうしたECモールに私たちは漂うのか?それは豊富なコンテンツという点に尽きるでしょう。様々な選択肢というのは非常に価値のあるショッピング体験の一つなのです。豊富なコンテンツにある方に流れるのは何もアパレル業界に限った話ではありません。NetflixやYouTube、スーモ、indeed。あげればキリがないのですが、豊富なコンテンツ力はモノ・コト選びにおいては最大の武器です。よってアパレル業界はECモールというの存在が大きな力を持っているという考えに至ります。

indigozineでも何度か記事を書きましたが、近年はD2Cというビジネスモデルがメジャーになってきました。D2CとはDirect To Customerの略でその名の通り直接お客様に商品を届けるというビジネスモデルです。数年前より格段にECサービスが利用しやすくなった背景があります。ShopifyやBase、woocommerceといったECサービスを用いれば難しいスキルを使わずにECサイトが持てます。また広告もInstagramやWeb広告を使えば以前より安価に、より狭域のターゲットに絞って広告を出すことができるようになりました。D2Cでの買い物は以前より格段に増えたと思いますが、アパレル業界を大きく覆すようなゲームチェンジャーになったのかと言えば、答えは違います。まだまだ、細分化したニーズの受け皿の一つで、個店で独自性のあるセレクトショップのような立ち位置であると思います。

D2CでありながらSHEINは何故爆発的な支持と売上をえているのか、それは先ほどに述べた、コンテンツ力という点と最初に述べたSPAの特徴が大きな要因と言えると思います。例えばレディーズのデニムという検索をしてみてもご覧の通り、1ページ100品番近くが合計40ページに渡るラインナップとなっています。

十分を遥かに超える選択肢が与えられるのです。そしてSPAの特徴であるトレンド感や価格も絶妙な設定となっています。つまりD2Cでありながら、豊富なコンテンツを有し、SPAの特徴であるトレンドに俊敏な企画を低価格という王道な路線がしっかりと周到されているのです。D2Cの利点は個人規模でも行えるようなスモールビジネスでありましたが、そんな社会の流れとは一線を画するのものです。

では一体その背景にはどういったものがあったのでしょうか①webマーケティングのプロが売れやすい品番を個人の主観をなく企画出来る②中国という世界最大の工場③大掛かりな資金調達

大きく上にあげた3つの理由が挙げられます。前段の様に咀嚼すると、「売れ線を世界最大の工場で爆速的速さでweb上に並べる事ができる」というイメージです。本来アパレル企業の商品には語るべきストーリーというものがあります。企画立案において議論を重ね、生地調達でこだわり、何度も何度もサンプルを縫製する事で生まれるストーリーです。これがブランドの価値となって支持を得て企業として生業としていく。というサイクルがいわゆる一般的なアパレルメーカーの姿です。それらの段階をロケットですっ飛ばし、テクノロジーと世界最大の工場という巨大なハードを駆使して超えていくのがSHEINです。おおよそ1週間に10万点の商品を世に送り出しています。ファストファッションの領域をこえ、売れている飲料様な規模感でビジネスをしています。また企画からわずか7日でweb上に並んでいると言われています。これは商品の入れ替えが顕著なZARAでも4週間かかる事なので、本当に爆速的な速度と言えます。企画にはAIの力が大きく寄与しており、色や形は勿論の事、デザインのディテールにまでテクノロジーが使われていると言われています。これらテクノロジーを常に最新にアップデートする研究費はこれまできっとどのアパレルメーカーも大きく投資してこなっかのではないでしょうか?もはや自動車産業の研究開発の次元の様な気がしています。世のニーズに対応するのは優秀なファッションプランナーの役割でしたが、SHEINはそれを人からテクノロジーに変える事で新たなモデルを提示したと言えます。

これまでSPA(ファストファッション)、いやファッション業界には実店舗というものがありきでした。それらはEC比率の高まりや新たなソフトウェアの技術、人々の生活様式の変化により、少しづつシフトチェンジをしていくよにみえます。全ての業界がここ数年でシフトチェンジをしていく中、アパレル産業は比較的スローに変化をしていましたが、SHEINの登場により、もしかしたらそのあり方を変えるかもしれません。

アパレル業界の魅力ってなんだろって考えると、やっぱりストーリーだと思うんですよね。こんな変化が起こりうる時だからこそ、そんなストーリーの方にフォーカスして広められたらなと思いました。